あなたにも起こるかもしれない相続問題の実例についてお話します。

家族の絆は何よりも強い!!

今回は、長男が3年前に交通事故で半身不随と脳障害を負ってしまった父親Aさんからの相談です。
Aさんは2年前に奥様を亡くされ、子供は長男と長女の二人だけです。長女は結婚をし家を出ていますが、長男は事故の影響で一人での生活が困難なため施設に入っているとの事です。

Aさんの相談内容は、もしAさんが亡くなった後、残された長男の生活をどうしたら良いか。そのためには今から何をしなくてはいけないかという事でした。長男は独身だそうです。
話を聞いていると、長女夫婦が今は長男の世話をしていて、最後まで面倒を見ると言っているそうです。Aさんは、長男の世話を続けてくれる長女のことも考え、遺産分割を行いたいということでした。
私は長男の状態も考え、遺言書を書くことを勧めました。そして公証役場で公正証書遺言を作成しました。
主な内容は、①長女が長男の世話をしていくこと。②遺留分に反しない程度で長女に長男より多めに遺産を相続さること。③家屋は長女が相続すること。(売却資金で長男の生活資金を賄うため)

3年後、Aさんは亡くなりました。葬儀の日、泣き崩れる長女の横で、車椅子に乗せられた長男の目から涙が流れるのを見て、家族の絆はどんなことがあっても強いと改めて感じました。

相続人の中に意思能力のない人がいた場合はどうすれば良いか?

このシリーズでお話をして来ました通り、相続には色々な手続きが必要です。その中で一番大変なものは、遺言書がある場合や法定相続人が一人だけの場合を除き、原則として「遺産分割協議書」を作成しなければならないということです。
遺産分割協議は、「相続人全員の同意が必要」であり、今回の事案のように長男が事故の後遺症で意思表示ができない場合は、相続人全員の同意が得られないということで遺産分割協議は成立しません。そのため遺産分割も出来ず相続が先に進みません。
この場合は、一つはこの事案のように遺言書を作成すること。もう一つは、成年後見制度を利用して成年後見人を家庭裁判所に選任してもらい、長男の成年後見人と長女で遺産分割協議を進めることです。
ただ後見人の選任には約2~3ヶ月かかり、遺産分割協議が無事に終了しても成年後見制度は長男が亡くなるまで続きます。また、後見人は毎年家庭裁判所に長男の財産目録や収支報告書を提出し、もし長男に居住用の不動産がある場合には家庭裁判所の許可が無ければ処分が出来ません。
Aさんの気持ちや長女のことを考え、私は上記のように遺言書の作成を勧め無事に遺産分割は終了しました。

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